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 なぜそんなことをしたんだろう。この頃の自分は、過去のことを早く忘れたいのか、過去の思いを確認したいのか、それとも澄田との仲を深めたいのか、何をしたいのかよく分からなかった。目まぐるしく切り替わる信号のように、俺の心は定まらなかった。 
 結局その子とはすぐに別れた。自分でも何してるんだろうと思った。後には虚無感だけが残った。

 四年制になり、俺も澄田も就職を決め、そのまま無事大学を卒業した。
 この四年間は、種子島にいた時に比べて一瞬で過ぎ去ったように感じる。充実していたということだろうか? 様々な人と出会い交流し、様々な経験をし、世界が広がった。今になって思えば、学生時代にしかできなかったであろう非常に有意義な時間の使い方ができていたんじゃないかって思う。授業で得た知識や、バイトで培った仕事のノウハウ、友人たちとの討論で感じたことや、何気ない世間話ですら自分の人生にとっては大切な財産の一つだろう。
 そしてもう一つ。俺の側にはいつも澄田がいたということ。この四年間、正直彼女がいなくても生活はできていただろう。いつも俺の心はフラフラして彼女を見ていなかったこともあったし、どう思われているかなんてことも考えていなかった。じゃあ逆に、澄田は俺のことだけを見ていたのだろうか? それは分からない。
 だけどそれでも、澄田との思い出だってたくさんできた。色々な感情が渦巻き、多くのことを学んだ。こんなことは、共に過ごしたのが彼女でなければ感じ取ることができなかったはずだ。そう、これからだって……
 俺はもうすぐ社会人になる。立派な大人だ。この先もこの場所で、そして澄田と生きていくのだ。今目の前にいる彼女の顔を見詰めてそう強く決意した。