13
「そうかもね」
 どこか疑問を持ちつつも、明里は少し笑いながらそう言った。
「また今度作って欲しいな」
「うん、いいよ」
 そんな会話をしながら、俺も明里もお弁当を完食した。

 お腹が満たされ一息ついた後、俺達はまた会話を続けた。
 明里が東京の小学校に転校してきた日のこと、いつも二人で下校したこと、明里との仲をクラスメイトにからかわれたりしたこと、他にも色々、そんな昔話に花を咲かせた。一つ話題が上れば、次から次へと記憶が自然に思い出され、止まることはなかった。
 明里はそんな俺を見て、「もう貴樹くんは昔のことばっかりなんだから」と少し呆れたように笑ってた。だけどその言葉に俺は、「大切な思い出だから」と真剣に答えた。
「それからさ、ずっと明里に謝りたかったことがあるんだ」
「うん?」
「小六の時、明里が『一緒の中学には行けなくなった』って電話してきてくれたことがあったでしょ?」
「うん」
「あの時、あんなに酷いことしか言えなくて本当にごめんね……明里は辛かったはずなのに」
「うん……でも貴樹くんも辛いって、私にも分かってたから……」
「いや、それでも……それに卒業式の日だって……」
 あの日の無力だった自分が思い起こされる。
「ううん、昔のことは気にしてないよ。私にとってあの頃は、楽しい思い出で一杯なんだよ。もちろん貴樹くんがいてくれたから」
 そう言われて、少し救われた気がした。
 雲が流れ、太陽を隠し、日陰になった。そして明里は俺の瞳の奥をまっすぐに見詰めてこう言った。

「それに今、大人になった貴樹くんと一緒にいられることが本当に幸せだから」


 日が傾き、夕方になった。
 そして俺は明里とキスをした。あの夜と同じように。
 その瞬間、俺の心は強く締め付けられ、それと同時に熱くなった。またここに帰って来れたのだ。今目の前に明里がいて、彼女の温もりを直に肌で感じられているのだ。彼女の全てを抱きしめる。それが大人になった自分にできること、あの夜分からなかったことの答えが分かったような気がした。やっぱり自分の心は常に明里に向けられていたのだ、自分が辿り着きたかった場所はここなのだ。今それがはっきり分かった。
 明里と途切れていたことなど、もはやどうでもいい。もう不安なんてどこにもない、全て消え去った。そして俺達はこの先離れることなど決してないのだ。今までの人生全てが明里のためにあったのだ。これからだってずっとずっと。
 ただただ幸せだった――

 この頃覚え始めた、心の内に見え隠れするある一つの違和感を除いて……