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まえがき
第二話で貴樹と花苗が付き合う話です。原作と大きく違うため、それが大丈夫という方のみ読むことをお薦めします。話は、花苗が貴樹に告白しようとするところからです。
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私は今日、遠野くんに告白すると決心したのに、やっぱりどうしても言えないよ…… 迷いなんてもうなくても、気持ちを伝えたくても言葉が出てこない。今日告白できなければ次いつ言えるというのだろう? このタイミングを逃したら、永遠に告白できないとはっきり分かってる。なのに……
だからお願い遠野くん、あたしに一言でいい、『好き』と言わせて――
「澄田……俺はいつまでも待つよ」
彼は突然優しく微笑み、私につぶやいた。まるで私の気持ちに気付いているかのように。
「遠野くん……」
私は彼の言葉を聞いた瞬間、自分がとても恥ずかしく感じた。遠野くんが待ってくれているのに、何を言えずに戸惑っているのだろう…… 言うんだ、告白するんだ!
この時、私は自分がこれまで生まれてきた中で最も勇気を出した瞬間だったと思う。自分でもどこにこんな勇気があるのか不思議なくらいだった。
私は彼に向き直り、意を決した。
「遠野くん……あのね……あたし、遠野くんに出会った中二の時から……本当に……本当に遠野くんのことがずっと……ずっと好きでした。だからね……あたしと、付き合って欲しいんだ……」
なかなか次の言葉が出てこなかった。まるで誰かに首を絞められているような感覚。それでも私は一言一言振り絞るように言葉を発した。おまけに私は告白している最中に泣いてしまった。壊れた蛇口みたいに涙が止まらなかった。ちゃんと告白できたのか、遠野くんにはっきりと気持ちを伝えられたのか、それすら分からなかった。ひどい顔をしていたかもしれない、恥ずかしいものを見せてしまったかもしれない……。それでも声に出して言うことができたんだ、それだけで私は胸のつかえが無くなったような気がした。結果はどうであれ、遠野くんが私に向き合ってくれただけで嬉しかった。
「澄田……」
遠野くんは、嬉しいのか悲しいのか、それとも全く別のなにかが混ざった様な、はっきりと読み取ることができないような表情でつぶやいた。
彼からの答えを聞くまでのほんの少しの間が、まるで永遠に時が止まったような、決して辿り着けない果てしない旅をしているような感覚に襲われた。怖い……怖いよ……聞きたいけど聞きたくない、早く過ぎ去って欲しい……ただひたすらに。
そして遠野くんは再び優しく微笑み、私の瞳をまっすぐに見つめて言った。
「……うん……いいよ。付き合おう……」
私はその瞬間何が起きたのか全く理解できなかった。付き合えればいいなとずっと思い続けてきたけれど、まさかそれが本当に叶うなんて夢にも思わなかった。
私は嬉しさのあまり何も答えずに、いきなり彼に抱きついてしまった。体が勝手にそうしていた。でも遠野くんは私を引き離そうとはせず、母親が子供を慰めるように優しく抱きしめてくれた。
私はくしゃくしゃになった泣き顔のまま、彼の顔を見上げ
「遠野くん……ありがとう。本当に嬉しい……嬉しいよ……私すごく幸せだよ」
そう言って、またも何も考えずにいきなり彼にキスをしていた。今までの遠野くんに対する思いがすべて出たからこその行動だったと思う。遠野くんの気持ちも考えずに、突然こんなことしてごめんね。驚かせちゃったよね。でもずっとこうしていたかったんだ…… これが今の私のスキの気持ちだよ。受け取ってくれると嬉しいな……
――その時だった。夕闇に突如鳴り響く轟音。目の前がまぶしく光り輝く。今日打ち上げのロケットだった。空の彼方、大気圏を飛び越えて宇宙の先まで飛んで行く。まるで今の私の気持ちを代弁しているみたいに、これから未来に向かって遥かなる旅路に就くんだね。それになんだか私たちを祝福しているかのように感じたよ。
私たちはその光景に驚いて、ロケットが飛んでいく空をただ見つめていた。そしてその時、私の目の前には遠野くんとの二人だけの世界が広がっているように思えた。誰にも邪魔されたくない、そんな世界。
そして再び静寂が訪れ、夕闇が私たちを包み込む。
私ははっと我に返り、自分がしたことがなんだかすごく恥ずかしく思えてしまった。
「あの……いきなり変なことしちゃってごめんね……」
「いや……いいんだよ」
遠野くんは微笑んだままだった。
そしてまた私たちは歩みを進めた。いつもの見慣れた帰り道。そんな帰り道が、普段と違ってすごく鮮やかでキラキラして見えた。とにかく色んな事を話したくって、でも頭も心も整理できなくて、そんなことをしているうちに私の家までは一瞬だった。本当に時間が止まってくれればいいなって思ったよ。
私の家に着くといつものようにカブが駆け寄ってきて、心なしかなんとなく嬉しそうに見えた。私の気持ちに気付いているのかな? なんだかちょっと照れちゃうよ。
そうして私は遠野くんとバイバイをして、彼の背中が見えなくなるまで見送り続けた。彼が見えなくなっても私はドキドキしたままで、その後もしばらくそこに立ち尽くしていた。
少し気持ちが落ち着いてから家に入ると、お姉ちゃんが何かを察したように話しかけてきた。
「何かあったの?」
「べ、別に……何でもないよ」
そう言って私は話をはぐらかした。だけど多分私の顔はおかしいくらいにニヤついていて、お姉ちゃんにはバレバレだったと思う。こんな表情私自身が見ても笑っちゃうんだろうなぁなんて思いつつ、嬉しさで心が一杯だった。
ご飯を食べて、お風呂に入って、寝床に就いた。今日起こった事を改めて思い返してみる。
最初に告白しようとして、でもできなくて、またもう一度ちゃんと遠野くんに私の気持ちを伝えられたのは、もちろん彼があの言葉を掛けてくれたからだ。あの言葉がなかったら絶対に告白なんてすることができなかったと今はっきり分かる。どんなに彼が好きでも、あの時の私は自分の口からはどうしても言葉が出てこなかったし、それ以上に出してはいけないと感じたからだ。
私の勝手な想像かもしれないけど、遠野くんは私のスキという気持ちに気付いていたからああしてくれたんだっていうことでいいのかな? そうだとしたら今までの彼に対する行動が、ちゃんとスキとうい形で伝わってくれていたんだってきっとそう思う。私のしてきたことは決して無駄なんかじゃなかったんだね。
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